墨美神®︎樋口鳳香のつれづれ

歌川派の墨絵師、墨美神®︎樋口鳳香のアートブログ。『墨美神®︎を描く講座』と『展覧会告知』を発信します

【繊細で骨太な人生】


古い映像をひっくり返していたら

緒形拳が出てきた。

役者として色気があるから、だけでなく

なんとなく共犯者のような心持ちがして

気になる俳優のひとりだ。

もう、此処にはいないけどね。



中川一政という絵描きがいる。

いや、いたんだ。

真鶴の方にミュージアムもある。

地元の福浦港の景色を描き続けた人だ。

駒ヶ岳や 薔薇の絵でも知られる。

力強くて いい。

ゆらぎがあって いい。

それらは油彩画だが、書がまた いい。

「我はでくなり つかはれて踊るなり」

という言葉だけでも

ご存知の方は多くいるのではないだろうか。



生涯、弟子を持たぬ画家であったが

作品を抱えて頻繁に訪れる緒形のことは

目にかけていたらしい。



故・緒形拳のエッセイ集に

福浦港へふたりで連れ立った、というくだりがある。

『ここで繪を描いていると、長いから漁師もなじみになって

 僕の繪をみて、この頃うまくなったな、なんて云うんだ。

 これでメシくうのも大変だな、なんてね。

 返事のしようがないからウンで言うんだ』

…このくだりが好きで 何度も読んだ。

「ははっ」と笑いながら

海風に吹かれるふたりの影が見えるようだ。




芸術家の端くれとして

つくづく骨太でいたいなと思った。

どんな嵐の中でもぶれない背骨を持ち、花のように笑う。

自分の道を貫くことに真摯で、繊細で、

かつ骨太な人生を歩みたいなと。

いつまでもおだやかに

空と海が解け合う人生の景色を見つめていたいな、と。